Inkscapeではメニューなどの文字表示にGTK+というオープンソースなライブラリを利用していますが、GTK+は頻繁に更新されているプログラムのため、必ずしも完成度が高く安定しているとは言えません。InkscapeでもGTK+に起因する不具合がいくつか報告されています。
GTK+はGIMP Toolkitとも呼ばれ、もともとGIMP用に開発されたライブラリですが、現在ではMozilla Firefoxをはじめとする多くのアプリケーションで利用されています。したがって、ここで説明するGTK+由来の不具合はInkscape特有の問題ではなく、パッケージにGTK+が含まれているすべてのアプリケーションに共通する不具合です。含まれるGTK+のバージョンやOSなど環境の違いによって、不具合が発生するかどうかが変わります。
0.48.3~0.48.5で入力欄が無効になる
0.48.3~0.48.5のInkscapeには、Windows版の最新バージョンではオブジェクトを編集するとダイアログやツールコントロールバーの入力欄が無効になって、何も入力できなくなる不具合が存在します。
この不具合を回避するには、次のようにいくつかの方法があります。
Inkscape 0.48.2を利用する
不具合が発生するのは0.48.3以降のバージョンのため、0.48.2であればこの不具合は起きません。
本マニュアルでは、安定バージョンである0.48.2を利用することにします。0.48.2のインストールファイルは、SourceForge Downloads (http://sourceforge.net/projects/inkscape/files/) の下の「inkscape > 0.48.2」のフォルダに置かれています。Inkscape-0.48.2-1-win32.exe をダウンロードして実行してください。
64bit版を利用する
64bit版のInkscapeであれば、最新版である0.48.4でもこの不具合は起きません。
ただしInkscape 64bit版は、64bit版のWindowsでしか利用できないため、インストールの際には利用できる環境かどうかをあらかじめ確認してください。
Potable版を利用する
Portable版を利用する方法、および環境変数を設定する方法であれば0.48.4を利用できますが、起動後はインタフェースが英語になっています。メニューを日本語にするには 「File > Inkscape Preferences」 (Shift+Ctrl+P) の中の「Interface」の「Language (requires restart)」に「Japanese (ja)」を設定してからInkscapeを再起動する必要があります。
環境変数「LANG」に「en」を設定して利用する
環境変数を設定する場合、システム環境変数を変更すると他のアプリケーションにも影響する可能性があります。InkscapeでのみLANGにenを設定するためには、拡張子を.jsとしたファイル(たとえばinkscape.js)を作成してテキストエディタで開き、次の内容を書き込みます。
var wshell = new ActiveXObject("WScript.Shell"); var env = wshell.Environment("Process"); env("lang") = "en"; wshell.run('\"C:\\Program Files\\inkscape\\inkscape.exe\"', 1);
wshell.runの引数部分のpathは、インストールした環境に合わせて適宜変更してください。このスクリプトを実行すれば、環境変数LANG=enとしてInkscapeが起動されます。
ただし上記方法で0.48.4を利用した場合、テキストツールを使って日本語入力できないことがあります。確認できている範囲では、Microsoft IME 2010を使っている場合に入力できなくなるようです。日本語入力ができない場合でも、他のアプリケーションで入力したテキストをコピー&ペーストすることで入力可能です。
0.48.4以降でメニューフォントがきれいでない
0.48.4以降のInkscapeでは、メニューのフォントがWindows標準のものと異なっていて見た目がよくありません。
Inkscapeのフォント定義で日本語より中国語が優先されているため、中国語フォントとして表示されてしまっているのが原因です。したがって日本語を優先するようフォント定義を書き換えてやれば、次のようにWindows標準フォントを使って表示するようになります。
編集の必要があるのは、次のファイルです。
- [Inkscapeインストール場所]\etc\pango\pango.aliases
pango.aliasesファイルをテキストエディタで開き、次の内容を書き込んで保存します。ファイルが存在しなければ新規作成します。ファイルがすでに存在する場合、元の内容を消して上書きでかまいません。
courier = "courier new" tahoma = "tahoma,meiryo,browallia new,mingliu,simhei,gulimche,ms gothic,kartika,latha,mangal,raavi" sans = "arial,meiryo,browallia new,mingliu,simhei,gulimche,ms gothic,kartika,latha,mangal,raavi" serif = "times new roman,meiryo,angsana new,mingliu,simsun,gulimche,ms gothic,kartika,latha,mangal,raavi" mono = "courier new,ms ui gothic,courier monothai,mingliu,simsun,gulimche,ms gothic,kartika,latha,mangal,raavi" monospace = "courier new,ms ui gothic,courier monothai,mingliu,simsun,gulimche,ms gothic,kartika,latha,mangal,raavi"
この修正後にInkscapeを再起動すれば、メニューがWindows標準フォントで表示されます。